ニヤ伝
氷の章 〜つるつるすべって頭ぶつけて〜
(承前)
最近はクラシックを聴くのが多くなったなー
特にベートーヴェン
光の世界 カカリコ村郊外 図書館前…?
景色が変わり、光の世界へ戻れた…と思ったら、一瞬の内にまた景色が変わり始めた。
そして、闇の世界へと強制送還された。
「…?」
「マジカルミラーは障害物がある場合や明らかに行けない場所の場合その効果は無効となる…だって」
…そんなの聞いていない…。デットはそう思った。
気を取り直して、再度マジカルミラーを使う。
そして、光の世界へと戻り、鍛冶屋へと歩を進める。
「ありがとうございます!」
ついさっきまでカエルだった鍛冶屋――名札が付いている。梶田梶蔵…?
「そんなことは良い。お礼は?」
奥から出てきた鍛冶屋(相棒)――こっちにも名札が付いている。梶木梶太郎…?が言った。
「…はい?」
「助けてやったお礼はって聞いてるんだよこのウスノロ」
「…すごい相棒だな」
「……これって完全に君主制…?」
鍛冶屋(相棒)――梶木梶太郎がこちらを向き、こう言った。
「どうも、うちの相棒を助けていただいてありがとうございました」
鍛冶屋――梶田梶蔵は口を開くが、梶木梶太郎に遮られ何も言えなかった。
「あっしらに出来ることと言えば、剣を鍛えることくらい……あなたの背中の剣、少し見せてくれませんか?」
デットは言われたとおりにする。
梶木梶太郎はサッドネスノクターンを見つめる。その眼は、どこか哀しそうに見えた。
「この剣、長い間使われていなかったようですね。所々に錆がある」
「サッドネスノクターンは、台座に収められたまま何百年も勇者を待ち続けた。当然のことだ」
「…これが伝説の?悲しみの夜想曲?」
梶木梶太郎は目を剥く。
「知ってるのか?」
デットが疑問を投げかけると、梶木梶太郎は眼の色を変え、デットに語りかける。
「鍛冶屋仲間の中で知らない者はいませんよ」
梶木梶太郎の話によると、こうらしい。
――その剣を振るう時、時の彼方より哀愁溢れるピアノの音色鳴り響き、生きとし生けるもの全てを深い悲しみへ誘う。
その様、まさに悲しみの夜想曲…、サッドネスノクターンなり――
「本来ならその刀身は透き通るような碧なのに…、この剣の刀身は赤い…」
「…それって…」
「力が失われている…っていうことか?」
もはや、サッドネスノクターンにはソードビームを打つくらいしか出来ることはない。
デットは、シープの言っていたことを理解した。
このためだったのだ。退魔の力を取り戻すために、あんな事を言ったのだ。
「…これを鍛えて欲しい」
「……いや、私自身がこの剣を鍛えたいのです。貴方のためでも、お礼でもありません」
デットは、それでもいいと思った。サッドネスノクターンが強くなるのなら。
「お礼は…そうですね、この家の近くにあるもので良ければ」
そう言い、梶木梶太郎は外に出て辺りを見渡す。
「この家の周りにあるもので、好きなものをとっていって良いですよ。では、私はこれで」
梶木梶太郎は作業場へと戻っていく。
「どうするんだ?」
「とりあえず周りを見てみるか」
デットは、辺りを見渡す。特にめぼしい物はない。
だが、明らかに侵入者を妨げる為にあるように、そこに杭が打ち込まれていた。
それを不審に思うと、ロザリオに話しかける。
「マジックハンマー出せるか」
「出せるけど、どうして?」
「見りゃ分かるだろ」
気に入らない、と言った表情でロザリオはマジックハンマーを出す。
だが、出した所でロザリオはイヴァリアスを殴り始める。腹癒せ…?しかし何の…?
「止めろよ」
「そうだロザりん、やめるんだ、俺はこんな痛いの望んじゃいない!」
だがしかし、だがしかしだ。イヴァリアスの表情が和らいでいく。
いや、その前に何でロザリオの機嫌が悪いのかが分からない。何故だ、一体何故。
「いてっ!いててっ!……でもこれもいいかも…」
「止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ!」
そんな調子で止めろを数十回言ったデット。柄にもなく叫んでいる。
デットの壮絶な止めろコールに反応したのか。
ロザリオはイヴァリアス――巨人の仮面(割れかけ)装着済をマジックハンマーで殴るのを止める。
「なんで?」
「イヴァリアスが心理の扉を開こうとしてるんだぞ」
「人体錬成なんてしてないわよ?」
「そう言う意味じゃない」
「じゃあどういう意味よ」
「言いたくない」
イヴァリアスがロザリオへと詰め寄ってくる。
無論、イヴァリアスの身体はこぶだらけ傷だらけのアザだらけ、オマケに何かベトベトしたものが口から流れ出ている。よだれ…何故?
「まあまあ…それよりもっとしてくれよ、何かつかめそうなんだ」
「つかむのは良い事なんだがものにもよるから止めろ!」
デットがイヴァリアスをなだめようとする。様子からしてあと一歩の所まで来ている。かなりやばい。
もう少しで心理の扉を開きそうである。無論、これは比喩表現であり、某錬金術の漫画とは名称を除いて一切関係ない。
イヴァリアスがロザリオの肩をつかむ。
ロザリオは怒りとも悲しみとも恐れともとれる表情でイヴァリアスを見つめる。
「………」
あのロザリオでさえ黙らせるイヴァリアスの顔、何かに目覚めそうな精神…。ニヤ伝史上最凶かもしれない。
「さあ…早く。さあ、さあ!」
「ひっ……!」
――辺りが、光に包まれた。
ここではもう、あえて語らないことにする。
光の世界 カカリコ村 鍛冶屋の家
「鍛え上がりましたよ」
梶田梶蔵が部屋から出てきて、言った。
デットは、差し出されたサッドネスノクターンを受け取り、鞘から抜いてみる。
そして、感嘆する。
「刀身が…青くなってる?」
「それでも、伝承のサッドネスノクターンの色までは行きませんでした。あと一つ…何かが足りないのでしょう」
「…それでも、強くなったんだろ。ありがとう」
梶田梶蔵はおじぎをし、作業場へと戻っていった。
デット達が鍛冶屋の家を出て、闇の世界へと戻ると、彼等はシープを見た。
デットは思わず身構える。
「…悲しみの夜想曲は目覚めた。だが、まだ寝ぼけている」
「寝ぼけてるのはお前の頭じゃないのか?」
「次に出向くことになる神殿、闇の世界からは侵入不可能だ」
「なんだいゴルバチョフ、おめーもオラを試そうとしてるのか」
先程の事件の後遺症か、イヴァリアスが変な話を始める。おかしな奴だ。
「デットよ、周知の事実かと思うが、闇の世界と光の世界とではわずかに地形が違う」
「もーだめでしょクリストフ、そんな所におもらししちゃ」
ロザリオが頭の逝ってしまったイヴァリアスを世話している。
しかし何故クリストフなのか、何故幼児化してるのかは聞かない方が良い。
本人曰く、ジャン・クリストフに由来しているとか。因みにジャン・クリストフとは、ロマン・ロランの長編小説のことである。
「その地形の違いを利用し、神殿へとたどり着くことが出来るだろう」
「おい止めろよクリストフ、僕の服におもらしするなよ」
何というか、デットも乗っている。
よってシープの話を聞いている者は一人もいなかった。
「サッドネスノクターンを振ってみろ」
デットはシープの話を聞いていたのかいなかったのか、サッドネスノクターンを振る。
…デットの目線の先にはイヴァリアスがいたので、多分聞いていなかったのだろう。
サッドネスノクターンから出た波動が、木を十数本切り倒す。
「…!」
デットはその威力に驚く。波動が上を通った地面は、めちゃくちゃにかき回したみたいにえぐれていた。
「これがサッドネスノクターンの威力。目覚めたその夜想曲の威力だ」
しかし誰も聞いていない。
「ねえデット、こうしてるとなんだか…」
「その先は言わないし言わせないぞ」
「えー」
「さあ、聞くがいい。そのものを偉大なる泉の中央へ誘う調べ、氷のコンチェルトを」
だが、聞いている人間+妖精はいなかった。
闇の世界 氷の塔 ボス部屋
氷の塔に突入したデットは、進んだ先に穴を発見する。
「やっぱり、飛び込めってことか」
意を決し、デットは穴へと飛びこむ。
着地し、デットは辺りを見渡す。何もない。もぬけの空だ。
「何もないぞ」
「扉もないわね。どういうこと?」
ロザリオとデットは眉をひそめる。
その時、デットは冷気に気付いた。
「これは…?」
天井から水滴が落ちてくる。
ぴたん、と音を鳴らしながら水滴は次々に落ちてくる。
それは次第に滝へと変わり、最後には一つ目の、毛玉のような魔物が降ってくる。
水はデットを巻き込むかと思えば、魔物の近隣へと寄って、部屋に立ちこめていた冷気によって段々と固まっていく。
「どういうことだ…?」
「どうもこうもねーやい、俺は俺の道を行くんだよ」
「うるさいぞクリストフ」
魔物は、氷の中で目玉を動かし、デットを見据える。
その時だった。魔物の雄叫びが神殿全体に響いたのは。
天井からつららが降ってくる。どうやら、残っていた水が固まっていたらしい。
地面に落ちた所でつららは砕け、辺りに破片を撒き散らす。
「危ないな…!」
サッドネスノクターンで氷を切ってみる。だが、弾かれる。
「何でだ?」
考える間もなく、デットの脳天目掛けて天井からつららが降ってくる。
それを避け、デットは言う。
「ロザリオ、ファイアロッド」
「わかったわ」
そう言ってロザリオが取り出したのは…。
「たららたったらー、炎の矢ー」
「そのネタは良いから早くファイアロッド」
気を取り直し、ロザリオはファイアロッドを取り出す。
それを受け取ると、デットはファイアロッドを魔物―シュアイズに向けて振る。
ロッドの先端から炎が飛び出し、シュアイズの氷に命中。だが、すぐに炎は消え去る。
「ファイアロッドじゃ駄目か?」
「デット、ボンバー!」
ボンバーを受け取り、デットはサッドネスノクターンを掲げる。
サッドネスノクターンから熱気と炎が飛び出し、その炎はシュアイズの氷は水にはならず、気体へと昇華されていく。
そして、デットが落ちてきた穴から逃げていく。
自らの守りを失ったシュアイズは、デットに体当たりを仕掛けてくる。
避けようと思っても、シュアイズは大きすぎる。避けるのは難しいだろう。
となれば、やることは一つ!
デットは、敢えてそこを動かず、サッドネスノクターンをシュアイズに向ける。
クリスタルが何処に埋め込まれているか…それは分からない。そこだけが不安要素だった。
シュアイズはモロに刺さった。サッドネスノクターンに。
だが、そこから亀裂が生じ、シュアイズは3つに分かれた。それも、皆目を持ち、クリスタルが埋め込まれている。
「あーあ、合体が解除されちゃったよ。なあ次男よ」
「そうだね兄さん」
「私達の眠りを妨げるなんて許せないわ!」
何事かは知らないが、シュアイズは喋る。喋っている。滑舌も良い。
「どういうことだよ、これは…!」
「シュアイズ・長男、次男、長女よ。三人揃って『シュアイズ』みたいね」
「長女?」
それはともかく、全てにクリスタルが埋め込まれているのに対し、デットは舌打ちする。
あのどれもが本物なのか?それとも一つだけが本物なのか?
「私が行くわ!」
三体の内一体がデットに体当たりしてくる。目の近くにリボンがしてあることから察するに、長女?目印なのか…?
さっきより小さい分避けやすい。デットは避け、それから長女を斬る!
だが、もう一体―ハチマキを巻いている。しかも次男と書かれている―がデットをはじき飛ばす。
「馬鹿野郎、無茶すんな!」
「ありがとう次男」
もう一体―何も身につけていない。だがそれだけで長男と分かる―はデットを潰そうと飛翔していた。
「食らえ、コアラも木から落ちるアターック!」
デットは横に転がって長男を避け、長男に向けてソードビームを放つ。
だが、落下スピードが早すぎたためそれは外れ、衝撃でデットは床を転がる。
「行くぞ、長女、次男!」
「ええ、行きましょう!」
「無限の彼方へ!」
シュアイズ3兄弟はくるくるとデットの周りを公転しだした。
彼等の軌道上には線が現れ、内部には六芒星が現れ、それは3兄弟の動きと共に回転する。
いつしか周りには冷気が漂い、周りの壁は凍り付き始める。
そして、3兄弟は高らかに技名を叫ぶ。
「エターナル!」
「フォース!」
「ブリザード!」
『一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。相手は死ぬ』という必殺技を繰り出してきたシュアイズ3兄弟。
「デット!」
悲痛な声を挙げるロザリオ。
大気は、魔法陣に描かれていた六芒星と同じ形に、天井まで凍っている。
氷にヒビが入る。
もう、望みはないかと思われた。
「死んじゃ…死んじゃ駄目だよ、デット!」
「それでも…わたしは、いきつづける…」
ロザリオがそう叫んでいる一方、イヴァリアスがワケの分からないことを言う。
そう。その時だった。
「…ったく、本当に分からない奴だな…。
都合の良いことばっか言って、悪ノリするわ、イヴァリアス殴ってヘンなものに目覚めさせようとするわ…。
挙げ句死ぬな?身勝手なんだよお前は。…僕もこのタイミングは無いと思うけどね」
ソードビームが長男を一刀両断する。
着地し、デットは、斬った箇所を確認する。クリスタルまで斬れてしまったようだ。
だが、長男のクリスタルは偽物だったようだ。デットは安堵する。
「よくも長男を!」
「やったわね、今やったわね!?倍返しにしてやるんだから!」
「お前らうるさいんだよ…!」
ソードビームを放つ。その紺碧の波動は、一直線に飛んでいく。その先にあるのは、長女。
「危ない!」
次男は、長女を庇い、真っ二つに斬れるが、庇ったのもむなしく、長女も巻き添えになる。今度は、クリスタルは斬れなかったようだ。
クリスタルを拾い上げる。どっちが本物かは分からない。切れたクリスタルは、負の気を発していた。
「デット!」
「…ごめん。心配かけたみたいだな」
何でかは分からないが、とりあえず謝らなければ。そう思った。
「いいよ。信じてたもん」
「こんな時誰だってそう言うよな。ま、そんなことはどうでも良いんだけどな」
ロザリオは、クリスタルを取り出し、唾をかけていた。
何故そんなことするのだろう、とデットは思った。理由は考えないことにしておいた。誰のクリスタルかも考えないことにした。
そっと、クリスタルを手放す。片方がくるくると回転しながら宙に浮き、もう片方は音を立てて割れる。
クリスタルは巨大化し、その中に賢者が現れた。
まずひと言。ボス戦すげー楽しかった(爆砕
こうなることは予想外だったwwww
それはいいとして。
ノクターンつながりでショパンの曲をご紹介。
サッドネスノクターン(赤):ノクターン第2番 変ホ長調
…悲しみなのになんで長調なのかは力を失っているから
サッドネスノクターン(青):ノクターン 第20番
嬰ハ短調 「遺作」
少し力を取り戻したサッドネスノクターン。
サッドネスノクターン(真):ノクターン 第19番
ホ短調
この曲の作曲された時期にショパンは最愛の妹エミリアを亡くしたそうですよ
いずれもhttp://www.voiceblog.jp/andotowa/で聞くことが出来るのです
それだけです
サッドネスノクターンの話の時には勿論、ノクターン第19番ですよ