ニーヤの伝説
〜愛のデトニヤ劇場☆(待て〜

亀岩の章〜亀が好きな亀梨君〜


闇の世界 悪魔の沼

神殿から出たところで、シープに出会った。

デットはシープを見据え、こう言った。

「いつも大事なところで出てくるな、お前は」

シープは肩をすくめた。

「僕は神殿の中には入れないからね。こうならざるを得ないのさ」

「魔物が巣くう神殿は勇者じゃないと開放できないっていうのか?」

そう言うデット。その姿は、どことなく挑発的な印象を与えた。

「神殿の中の魔の気に耐えられないって事さ。…妖精がいたら別の話だけどね」

シープがロザリオとイヴァリアスを一瞥し、言った。

「それも特別な妖精がいないと、とても耐えられるものじゃない」

「…それは一体どういう意味だ?」

デットはその言葉に反応した。神殿の魔の気だの、妖精だの…。

今まで気にも留めていなかったが、言われてみれば確かに、自分が今まで平気だったのは…。

「本来、妖精と人間は助け合っていたのさ。人間は妖精を脅威から守り、妖精は人間を邪気から守っていた」

シープが言った。今日では妖精は森に住んでいるが、昔はそういった共生関係が成り立っていたのだ。

「その妖精の中でも、この世界を形成している力の内一つでも持っている妖精がいなければ、ガノンの邪気に耐えることは出来ない」

この世界を形成している力。それは勇気、力、知恵の三つの力。

それらはトライフォースと呼ばれ、それを手にしたものは世界を作りかえることが出来ると言われている。

この国の北西に位置する森から見て、東の神殿、あやしの砂漠、ヘラの塔の三点を結んで出来る三角形は、

このトライフォースがもととなっている。それぞれ勇気、力、知恵を司っている。

その三つの力の内一つ、

即ち勇気、力、知恵のいずれかの力を持つ妖精がいなければ、ガノンの邪気を払うことが出来ない、そう言っているのだ。

「…まさか、この馬鹿二人がそんな力…」

「持っていたら?」

チラ、とロザリオを見る。一瞬だけだったが、ロザリオの目が輝いていた。

イヴァリアスは…相も変わらず馬鹿まっしぐら。

もしも、この二人がその力を持っていたら…。

「また陰謀か…。いい加減にしてくれよ…」

「他にどんな設定を考えれば良いのか判らないんだよ」

「そこは勇者補正で良いだろ…常識的に考えて…」

そんなことはどうでもいいからさっさと進んで欲しいものだ、とシープは思った。

しかしこの作品、いつまで同じ事をやれば気が済むのだろうか。

「…聞くが良い、時の流れの果てに忘れられし唄、岩窟のアリアを」

正直、デットはこの系統の曲を使うつもりが無かった。というか、トラウマになっていた。

だが、急がなければ司祭デスが力の門を開いてしまう。使いたくないものでも使わなければならない。

そうして、デットはカメイワへと向かった。
 

闇の世界 カメイワ

カメイワ。別名時の神殿。時の賢者・ニーヤの囚われている神殿。今ここにニーやはいた。

「行くぞ」

デットはつぶやき、神殿に入っていく。

入ってすぐのところに、大広間があった。だが、床がゴッソリ抜けている。残された足場と足場の間にロープが張られている。

「どういうことだ?」

綱渡りしろとでも言うのか。しかし、それには長すぎる。

「デット、こんなところに都合の良いように本が置いてあるわ」

「本当に都合が良いな。なんだこの親切な神殿は」

一体誰の親切なのかは知らないが、とりあえず感謝しよう、とデットは思った。

「えっと…マル月バツ日、俺は巷で有名なガキ大将なわけだが、今日はあのムカつく猫次郎に言われてこの洞窟にやってきた。

…なんだこの日記みたいな本は」

その日記みたいな本の内容を要約すると、巷で有名なガキ大将が猫次郎にそそのかされてカメイワに来た。

そこでこの広間に来て、同じ大広間に来た。そこにはウールの一族と名乗る人達が現れ、この洞窟の仕掛けを教えてくれたそうだ。

その仕掛けとは…。

「企業秘密…って書いてあるわね」

「結局ヒント無しかよ…。何のためにこの本があるんだか…」

デットはその親切のようで親切でない本を放り投げ、神殿の仕掛けを調べてみた。

今まで手に入れた武器防具その他もろもろを試してみた。

だが全く判らなかった。

「デット、こうなったら最後の手段しかないわね」

「最後の手段…?」

「がんばって、デット!」

そう言うとロザリオは、デットの服の中へと逃げ込んだ。

「おい、お前今何処から入った」

ロザリオはデットの服の中に入ったわけだが、入り方に難があった。

その前に巨人の仮面装着済みでどうやって服の中に入ったのだろうか。

後ろで踊っているイヴァリアスは放っておいて、デットはある決意をする。

なるほど、確かに最終手段だな。

綱渡り。

それは底が見えないこの神殿の中で、最も危険な行為であった。

だが、ゲーム的に言えばフロアの入り口に戻されるのであまり問題なかったりする。
 

そうして神殿の奥へ進み、ついにボスの間。

いろんな経過を無視しているが、気にしない。

「ついに来たわね、デット」

「いつの間に出てきた。その前にどうやって入った」

「デットったら今更そんなことを言うの!?」

「そんな『どうしようもなくアホな子』みたいに言うなよ」

デットはボスの間の扉を開く。

その向こうには、何も無かった。

「…何か来るはずだ。お前らは巨人の仮面を取って避難してろ」

ロザリオはイヴァリアスの仮面を強制的に取り、次に自分の仮面を取った。

宙から何かが降ってくる音がした。

そして、音と共に現れたのは、巨大な岩。

岩から四つの短い足と、首。それに重ねて赤と青の細長い首。

例えるならば、亀に竜をくっつけたようなイメージ。

デグロック。それがこの魔物の名だった。

デグロックはその場を動かなかった。

どうする?

デットは考えていた。

この神殿の別名を考えてみれば、この魔物は岩に覆われている。剣が通るはずも無い。ならばどうするか。

考える暇も与えずに、赤と青の首はブレス攻撃を仕掛けてきた。

デットに襲い掛かる炎と氷のブレス。

程なくしてデットは部屋の隅へと追いやられた。

「くっ…!」

赤の首がブレスを吐く。

デットは咄嗟に盾を構える。この神殿で手に入れた宝、ミラーシールドを。

すると、盾はブレスを跳ね返した。ブレスは赤の首を襲うが、赤の首には効いてはいない。

だが、これが青の首に当たったらどうなるか…。

デットは避けるのを止め、盾をじっと構えた。

そして青の首はブレスを吐く。

跳ね返してやる…そう思った瞬間。

デグロックの尻尾がデットを襲い、デットは一気に壁へと弾き飛ばされた。

「っ…!」

ゆっくりと立ち上がる。常に動かなければならないということか。

だが、それでは跳ね返したブレスを当てることは出来ない。

ならば、こちらから攻撃するのみだ!

デットはボンバーのメダルを取り出し、サッドネスノクターンを掲げた。

そして、デットは青の首へ向かって剣を振り下ろした。

剣から飛び出した波動が、炎を纏って青の首を襲う!

青の首は炎をまともに喰らい、苦しみだす。

「よし、効いている…!」

赤の首がブレスを吐く。

デットはそれを避けるが、避けた先には尻尾が待っていた。

尻尾につかまれ、デットは全身を締め付けられる!

そのうちに回復した青の首がブレスを吐く。

その瞬間、デットは見た。

青の首の中にクリスタルが隠されているのを。そして、それを取ることは限りなく困難であることも、デットは悟った。

氷のブレスを正面から喰らい、デットの体を冷気が襲った。
 

何も存在しない闇の中、その少女は聞いた。

よく知っている少年の声を。自分を助けに来て、今苦しんでいる少年の声を。

闇に少年の苦悶の叫びが木霊する。それに対し、少女は耳を塞ぎたくなったが、それをしなかった。

決して、目を瞑ろうとはしなかった。

それは少年を信じていたからであり、また確信していたからだ。

祈りは必ず少年に届き、この魔物に決して屈しない、揺るぎない力になることを。
 

デットは目を閉じていた。それは、生物が持っている防衛本能に従ってのことだった。そして、それは何が起こったのかを、不運にも見逃す結果となった。

…いや、見なかったほうがいいのかも知れない。ロザリオ曰く、

「いいえ、ケフィアです」

全くわからないが、わからない方がいいかもしれない。というか、考えてはいけない問題なのだろう。

みくるビーム。いいえ、ケフィアです。

縛られている感覚が無くなり、目を開ければ、そこに広がったのは尻尾が千切れ苦しんでいるデグロックの身体。

…と同時に、白い吐出ぶ…いいえ、ケフィアです。

「…一体何があったんだ?」

デットはロザリオに聞いてみた。しかし帰ってきたのは、

「いいえ、ケフィアです」

の一言だけ。しかし汎用性のある言葉だ。いい言葉だ。

何のことかさっぱりわからないが、それはどうでもいい、とデットは思った。

今、目の前に立ちふさがる敵がいて、それを打ち倒せる時があるなら、立ち止まる必要なんて無い。

先ず、エーテルの冷気で赤の首を攻撃する。赤の首は悶え苦しみ、砂となる。

それから、青の首。さっき見た限り、この青の首の内部にクリスタルが埋め込まれていたはず。

だが、苦しみ、喘ぎ、その余りじたばたしているこの魔物にどう取り付き、どうクリスタルを取り出そうか。

それを考えてる暇は無いに等しい。とりあえずデットは、真っ先に思いついた方法を試してみる。

ソードビーム。

離れたところからこれをやるのには相当の集中力が必要。だが、今のデットにはそんなものが障害になるとは思えなかった。

狙うは首もと。チャンスは一瞬一度きり。

だがデットは、躊躇することなくサッドネスノクターンを振った。

それは過信でも、自惚れでもなかった。

ただ助けたい、それだけの想い――

そしてその思いは、狙いあやまたず青の首の根元を切り裂き、ニーヤを救う一筋の閃光となった。
 

闇の世界 時の神殿 神殿解放後

デットは、クリスタルをそっと手放した。

クリスタルは淡い光を放ちながら、ゆっくりと空中を舞う。

そして、人影が現れる。

その人影は、自分がかつてニアリス城から連れ出し、この旅のきっかけとなった少女のものだった。

「デット、よくここまで来てくれました。やはり貴方が伝説の勇者だったのですね」

無事そうなニーヤの姿を見て、デットはほっとした。

「ニーヤ…よかった」

そう言った途端、ロザリオが出てきた。…またもや変なところから不可思議な方法で。

「デット、何が『よかった』よ。私は他の女とフラグを立てることは許さないと前にもいったでしょ?」

「何の話をしているんだ?」

デットは突然出てきたロザリオとその口から発せられた言葉の二つを、同時に突っ込むことが出来なかった。

「あーもうっ、どうしてウチのデットはこう女たらしなの!?」

「誰がお前のだ。そもそもフラグって何だ」

「フラグと言うのはゲームやアニメにおいてあるイベントを発生させるのに重要なイベントもしくは行動の――」

「十五文字以内でよろしく頼む」

「特定の展開・状況を引き出す事柄」

「ほんとにやるとは思ってなかった」

「とにかく、デットには再教育が必要なようね!」

「突っ込みづらいからそういうネタやめてくれないか」

「初めて会ったときから、そんな気がしていました…」

「そう、初めて会ったときから…ってええ!?」

ニーヤの空気を読まない語りに思わずノリツッコミするデット。因みにこれが人生初。

これにはさしものロザリオも吹いてしまった模様。

「しまったすっかり忘れてた」

「デットさいてー」

「誰のせいだよ」

ニーヤはそのやり取りを微笑ましそうに見て、続けた。

「ガノンは、デスマウンテンの塔に結界をはり、二つの世界の通り道を抜ける時を待っています」

デットもニーヤも(ついでに言うならロザリオも)、その言葉で表情を変えた。

「そして、ガノンは光の世界を支配する…」

その言葉が意味するところは、ニアリスの支配に留まらず、この世界全てを支配する、ということだ。

もしそうなったら、今よりも多くの人が苦しむことになるし、何より許せないのは、自分が大切に思っているものを奪う。そのことだった。

「ガノンが光の世界へ出てしまったら、もう捕まえる事は出来ないかも知れません」

ニーヤもデットも、そうなったらいずれ始末される。

勝負は、この世界で決着が付く。

ガノンが逃げ切るか、こちらが追い詰めるか。

「でも、この閉じた空間の中なら、何処へ逃げても必ず見つけることが出来ます。さあ、七つのクリスタルを持って、ガノンの塔へ急ぎましょう。

結界は、私たちの力で破ります」

デットは頷いた。

もう時間は無い。ここから先は一秒たりとも無駄には出来ない。

「デット、必ず平和な国を…取り戻しましょうね…」

「ああ…」 「勇者の行く道が、トライフォースへと導かれますように…」
 

闇の世界 時の神殿入り口

シープはそこに立っていた。

どうやら、ニーヤを無事に助け出したらしい。

神殿からデットが出てくると、シープはこう言った。

「やったな、すべての賢者を助け出したんだ」

「で、結局あんたの役割は何なんだよ」

デットは辛辣な言葉をシープに浴びせかける。

「僕の役割は勇者をサポートすることだ」

「サポート出来てない気がするが」

デットのこの言葉は本心だった。正直言ったところ、この男のサポートが助けになった試しがない。あったとすればそれは偶然の内に入る。

しかし、偶然でも結果は結果。結果論からいえばこの男は役に立っている。

「そういう不親切なところもサポートの内さ」

「そんなサポート無いだろ」

「…つまりは少しはサポートらしいことをしろ、だね?」

デットは答えなかった。無言のまま、シープを見つめるだけ。

しかし、シープにはその意志が伝わったようだった。

「最後の闘いには、僕も同伴しよう」

「そうしてくれると助かる」

シープは握手を求めてきたが、デットはそれに応じるべきか一瞬悩んだ。

その一瞬の末に、デットは手を差し出した。…途端にシープが手を引っ込めた。

協力か傍観かどちらかの意志をはっきり示してくれ…デットはそう思った。

「とりあえず、これで残るはガノンのみって所か」

「あれ、いつの間に元に戻ってたのイヴァリアス?」

イヴァリアスは、ついこの間まで知的障害さながらの状態だったが、それが今となっては夢のようである。

「ついさっきだ。ニーヤ姫の願いが届いたって所かな」

デットは、その言葉に疑問を持った。

そのことについて聞いてみたところ、イヴァリアスは無駄に長い説明を始めた。

要約すると、妖精の誕生には二通りの方法があり、

一つはオスとメスがくっついて子供が生まれる方法、もう一つは人の願いにより妖精の泉より生まれ出る方法。

妖精が絶滅しても、人の願いによりまた生まれるので何時の時代も妖精は存在する。

また、人の願いから生まれた妖精はその人の願いを再度受けることで寿命を延ばしたり生命活動を活発にすることが出来る。

イヴァリアスは後者で、ニーヤの願いにより生まれ、先ほどの闘いでニーヤの願いを受けて復活した、ということだった。

「ということはあの白い吐出ぶ…ケフィアは…」

「俺の膿さ!」

「…汚いな」

「気にするな。それよりも、時間が無いってナレーターが仰ってるだろうに」

「…そうだったな」

気を取り直して、デット一行はガノンの塔へと向かった。



今回は分割無し。
無理に長く描く必要ないしね

しかし一話の頃と文章力が大分違うな(何