ニーヤの伝説
〜愛のデトニヤ劇場☆(待て〜

勇者の章〜続きはいつもこうでなくっちゃ♪〜
  決戦


ニアリス平原 教会周辺

デットは教会へと疾風の如く駆けてゆく。ニーヤと牧師のことが気がかりで堪らなかったのだ。

「しつこいんだよ…!」

何度倒しても立ち上がる兵士を相手にしながら、教会へと向かう。あともう少しだ。

ペガサスの靴の効果も相まって、デットの足は誰よりも早い。教会までの1qをたった10秒そこらで走りきる。

教会のドアを思い切り叩き、反応があるか調べる。案の定、反応はない。

デットは教会のドアを思い切り蹴破る。

すると、ドアの向こうから畏怖に似た感情を呼び起こすような闇黒が外へ流れ出してきた。

それを諸に喰らって後ずさりするデットだったが、すぐさま中に入る。

だが、中は相当暗い。

闇黒の所為もあるが、元々日の入りにくい場所だった。

そのため、絨毯の上に倒れ込んでいる牧師を見つけるのに数分かかった。

「…どうしたんですか?」

デットが牧師に聞く。牧師の反応は薄い。体力は限界に近付いている。

「司…祭…デ…が…、ニー…姫…を……」

途切れ途切れに聞こえる言葉をもとに、デットは思考を巡らせる。デットは牧師の体が見る見る薄くなっていくのに気付かなかった。

気付いた時には、遅かった。

牧師はゆっくりと、口を動かす。

「破魔の剣は…悪しきものを祓う力が…あります…、ですが…悪…そのもの…には…効きません……。魔力を…跳ね返……」

言葉が終わらない内に牧師は消えてしまった。デットは目を見開く。

(…このまま、奴の思い通りになるのか……?奴の望む世界にして良いのか……?)

身を翻し、デットはその場を立ち去る。

その背中には、強い決意があった。
 

ニアリス城下町

「デット、何処に向かってるの!?」

ロザリオが走り続けるデットに問いかける。

「城だよ」

ロザリオの方を見もせず、デットが答える。

「城…どうして!?」

「あの時見たろ、城の入り口の上の方にあった結界」

「まさか、あそこに司祭デスが!?」

「可能性は高い」

デットの前方に、城の姿があった。もう少し、もう少し。

更にスピードを上げる。そしてデットは、城の面前に辿り着いた。だが、城の門は固く閉じられている。

やむなくデットは、兵士を牽制するため、回転切りを使い、門を開けさせた。

「…やっぱりな、前見た時より光が強い……」

城の入り口の上から漏れ出すオレンジ色の光が、夕陽のオレンジより強く輝いている。

「行くわよ、デット!今こそ司祭デスを倒す時だわ!」

デットは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐにこう答えた。

「ああ」
 

ニアリス城 玄関ホール

玄関ホールは、案の定兵士が大勢いた。

「…こいつら、どうにかならないのか?」

「無理ね。どうにもならないわ」

「呆気なく切り捨てるな」

回転切りを繰り返しながら、デットは階段を目指す。

荒れ狂うエネルギーの渦に、兵士は吹き飛ばされ、傷付けられ、巻き上げられた。

だが、そんな状況の中ゾンビのように立ち上がり、デットに襲いかかる。

やむなくデットは兵士の首を突き、回転切りのエネルギーを直接兵士にぶつけた。

首は伐られ、回転切りで胴体は真っ二つになる。が、そんなことを気にする様子もなく、斬られた兵士は体を繋げる。

デットはその様子に気を取られた。その所為で、後ろの兵士が斬りかかってきているのに気がつかなかった。

「くっ…!」

デットはぎゅっと目を閉じた。だが、斬られた様子はない。痛みもない。

目をそっと開けたデットが見たのは、静寂を取り戻した玄関ホール。

兵士は何処に行ったのだろうか…、その答えは、足下にあった。

足下で束になっている兵士達。どうやら、縄で縛られたらしい。…だが、どうやって?

音も立てずに縛ることなど出来やしない。こんな短時間で、だ。

「間一髪セーフ…だったかな?」

細い、しかし低い声が言う。

「まったく、折角ニーヤ様から頼まれてやって来たのに…デットがこんなに弱い奴だったとは知らなかったな」

「何よ、そういうあんたはどうなの?」

口を開きかけたデットより早く反撃したのはロザリオだった。それを見たデットは、口を閉じた。

「これをやったのが誰かってのを考えたら、わかるんじゃないのかな?」

「…お前だな」

デットは妖精を見、言った。

「おうよ、こりゃ俺がやったんだ。で、お前、回転切りはなかなかだが、他がなっちゃいないな。いままで何してきた?」

そう言われ、デットは少し考える。

今までしてきたことと言えば、紋章を集めることと、破魔の剣を抜くことだ。それ以前は、普通の生活をしていた。

「…ふーん。三つの紋章を集める際、お前は何を使った?」

「…弓矢が殆どだ。今は矢がない」

妖精はデットを見据える。…目があるのか定かではないが…。

「だからか…、いや、素質は持ってる…足りないのは…覚悟だな」

妖精はブツブツと何かを言っている。それは、デットにも聞こえた。

「…で、お前の名は……?」

「名前?セント・クリストファー=イヴァリアス・ディリトン伯爵だ」

その妖精・・・セント・クリストファー=イヴァリアス・ディリトン伯爵は言った。

「…長いな…」

「長いわね」

「気にするな。イヴァリアスで良い」

イヴァリアスは魔法をかけた。すると、矢立の中に矢が数十本現れた。

「補充してくれたのか」

「ああ。とりあえず、先を急げ。いまにもニーヤ様はイケニエにされるかも知れん」

「わかった」

階段を上がっていくデットを見守っていたのは、他ならぬイヴァリアスであった。

「…本当の名前は…、

セント・クリストファー=イヴァリアス・ディリトン=寿限無寿限無(中略)長久命の長助=リオン・ビアンノ伯爵なのだが…。

はしょって良かったのかな…」

かえってはしょった方が良かったのかも知れないと思うのだが。

よい子はこのイライラするような長い名前を口に出していったりしないように。


イヴァリアス初登場。
後半へ続く。