ニーヤの伝説
〜愛のデトニヤ劇場☆(待て〜
終焉の章〜お前ら泣くんじゃないよ〜
司祭デスは、今目の前にいる人間、デットに激しい憎悪の念を抱いていた。
殺せ…殺せ!目の前にいるのは憎むべき悪だ!悪は排除しなければならない!
自身のエゴが定めた悪を滅ぼせる。そう思うと、ある種のエクスタシーのような物を感じる。
奴はこの手で倒さねばならぬ。奴を倒した瞬間、それは自身が絶頂に達する瞬間なのだ。
だが、簡単に勝ってしまっては面白味がない。だから塔内に大妖精を拉致し、デット達に発見させたのだ。
相応に価値を高めてもらうために。
そして、互角の戦いを繰り広げ、激戦の末に両者が倒れ、そして最後に立ち上がり、勝利という名の栄光を手にする。
痛めつけるのも良いのだが、それは生憎趣味ではない。
だが、少々やりすぎたようだ。
大妖精はどうやらあの銃を渡したようだ。
遙か昔、海に沈んだと言われる大地で我が分身を封印した、忌々しき銃を。
そのお陰で、心が躍る。
ここまで楽しいものになるとは思いもしなかった。崖っぷちという状況は久しいものだ。
この状況を打破してこそ、真にトライフォースに触れた者となるのだ。
何故だろうか。目の前にいる男はこの状況を楽しんでいるように思える。
自分が弾を打ち返すことまでは予想していたとでも言うのか。
それとも、恐怖のあまり気でも触れたか。
恐らく前者であろう。
この塔に何故大妖精がいるのかが気になっていたが、今となっては分かる気がする。
サッドネスノクターンの真の力を解放させるために、より強力な力をつけさせるために。
そう考えれば納得出来る。
だが…、
「フフ…消えて無くなるのはどっちかな?こう見えてもオレ様にはまだ余裕があるんだがな…ククク……」
…目の前にいるこいつは、極度の興奮状態にある。
何を考えているのか分からないが、その言葉がハッタリでは無い事は確かだ。
だがこっちにも余裕はある。今まではウォーミングアップと言った所だろう。
「性格まで変わってるんだな、平静を保てなくなったのか?」
「さあな。だが、今まではほんの準備運動だ」
だろうな。ラスボスというのはいつもそう言う。そしてヒーロー側が口にする言葉は…、
「ハッタリかましてんじゃねーよ」
これに尽きる。
その後、ラスボスの甲高い声が響き渡り、その後の第一声と共に繰り出されるのは…
「ヒャーハハハハ!!ぬぅかせ、ぬかせえい!」
今までのと段違いの攻撃。
その攻撃を跳ね返そうとしたものの、受けきれないと直感し、ギリギリで避けた。
光弾の着弾点は溶け、その強い衝撃でパネルは下の階へ落ちる。
それから、司祭デスの攻撃が嵐のように押し寄せてくる。デットはそれを避けに避け、時には弾いた。
しかし、限界はどれにも存在する。
デットの周りに、足場は殆ど残っていない。
そんな状況下で、デットは笑ってみせ、司祭デスは逆に追い詰められた表情をしている。
「どうした。さっきまでの余裕は何処に行ったんだ?」
「くっ…」
今や司祭デスは、身動きが取れなくなっていた。
退魔の剣。その名の通り、魔を寄せ付けず、払い除ける力を秘めている。
サッドネスノクターンの剣気により放たれたソードビームは、部屋の四方へと撃たれていた。
そして、それは司祭デスをその空間に縛り付ける力を持った。
デットの狙いはこれだった。追い詰められている振りをしながら、悟られぬように結界を張っていたのだ。
「僕の狙いに気付けなかったようだね。残念だけど、これで終わりにしてもらうよ」
デットは銃を構える。頭の中にヴァルトールが語りかける。
「チャンスは一度きり。やれるか?」
愚問だな、とデットは思った。やるしかないだろう。
セレナータ・トライデント。闇を切り裂き輝く三叉の鉾。
それがこの銃の力。銃から放たれた光は三つに別れ、それぞれが司祭デスを貫く。
その攻撃は司祭デスに大きなダメージを与え、追撃の隙を与えた。
無論その隙をデットが見逃すはずもなく…。
「たあっ!」
追撃のソードビーム。どうでもいいけど、ソードビームって空破斬にみえるよね。ネタがわかりにくくて御免。
ソードビームの波動をまともに受け、くずおれる司祭デス。
その司祭デスに対し、攻撃の構えを解いたデット。
「…情けのつもりか」
司祭デスは、デットに侮蔑の視線を送る。
「お前に情けなんかいらないだろ」
「ならば…何故だ」
「…確かにお前は許せない。でも、それでお前を殺したら…僕もお前と同じ存在になる。例え僕たちが奪うか、奪われるかしかないのだとしても…」
デットは部屋の中央をじっと見つめて、ため息を吐いた。
「もうお前に抵抗する力は無い。これ以上はただの暴力だ」
「俺は絶対に屈服せぬぞ…」
そう言った途端、司祭デスの体が溶け出した。
それを見たデットは、吐き気と危機感に同時に襲われた。
「二度も不覚を取るとは、もはやこの男は使えんな」
どこからともなく声がする。もはや原型を止めていない司祭デスの体から、豚のような姿をした化け物が現れた。
ガノン。光の世界で司祭デスを自分の分身として、また自分の腹心として使い、闇の世界と光の世界を繋ぐ門を開こうとした、すべての元凶。
双眸から垣間見える狂気と、力を示す右腕の甲のトライフォース。
その姿は正に…魔王。
「さっさと攻撃していれば俺様を司祭デスごと倒せたものを、最後の最後で甘さを見せたな、小僧」
ガノンから発せられる凄まじい闘気と邪気に、デットは気圧される。
「さあ、第二幕の始まりだ」
そう言い、ガノンは自身の背中の翼を羽ばたかせ、天井を突き破り飛んでいく。
デットはそれをただ見ているだけだった。
それから一分もしないうちにロザリオ、イヴァリアス、シープがやってくる。
「デット!」
「…やったのか?」
「司祭デスは倒した。でもガノンを逃がしてしまった」
だが、デットがすべきことはわかっていた。
「デット、これからが君の最後の闘いになるだろう。オカリナを吹くんだ」
シープが言った。
デットは頷き、オカリナを構える。
そして、デットは奏でた。
その旋律は、このオカリナの持ち主であった少年が、デットに聞かせた唯一の旋律。
勇者を聖なる三角へと誘う、聖なる戦いへの序曲。
黄金のオーバーチュアを、デットは奏でた。
ピラミッド内部
ガノンは、今目の前に現れた少年に対して、賞賛の意を示した。自分から逃げなかったことに対しての賞賛。
「小僧、褒めてやるぞ。よくぞ殺されに来たものだ」
ガノンがそう言うと、デットはそれを鼻で笑った。
「逃げておいてそれか。どうやら聖地に閉じ込められてた間に頭がどうにかなったのか?」
「さあな、俺様が言えることは唯一つ」
そう言い、ガノンは両腰の剣を抜いた。
ガノンから放たれた凄まじいまでの闘気に、デットは狼狽した。
「この闘いの勝者が、この奥のトライフォースを手にするのだ!」
開戦。
そしてガノンの猛攻。
ガノンの持つ二つの剣が、デットのサッドネスノクターンと激突した。
斬り、打ち、叩き、軋み合う。
その響きは、どこか物悲しくもあり、勇ましくもあった。
(力はこちらの方が圧倒的に不利だな。だけど、見たところこいつは近距離でしか攻撃できなさそうだ…)
押し寄せてくる強力な剣撃に、デットは焦りを感じた。
そして、距離を取り、ソードビームを放つ。
ガノンは両手に持った二本の剣の柄同士を打ち付けた。どうやら二刀一対で、連結可能らしい。
それを振り回し、デットの放ったソードビームを弾く。
狼狽したデットの隙を、ガノンは見逃さずに攻撃した。
「甘いわ!」
剣がデットの腹目掛けて飛んでくる。避けきれないと判断し、デットはそれを弾いた。
だが、それがガノンの狙いだった。
ガノンの塔の最上階…、そこには三人の男女がいた。
「デット…」
一人が虚空を見つめて言う。その少女の目は濡れていた。しかし、彼女は微笑んでいた。
デットと初めて会ってから一ヶ月余り。短い間のことだったが、彼女にはそれが何ヶ月にも、何年にも感じられた。
彼女にとって、デットの存在はそれほどまでに大きいものとなっていた。
「大丈夫、必ず勝つよ。彼は強くなったから」
シープが言う。そんなことはロザリオだって分かってる、そう思っていたのだが、あえて口に出した。
ロザリオも、そんなシープの意図を悟ったのか、頷いた。
「…どの道、私たちに出来ることは、信じて待つくらいのものだよね」
「ああ。だが、それがあいつの力になる、俺はそう思う」
もう一振りの剣があった。そのことに関して、デットは失念していた。
デットも、これまでの闘いで強くなっている。しかし、この目の前の怪物はそれをも凌駕していた。
「もう諦めろ、小僧。貴様は良くやった。俺の分身を倒したまでは褒めてやろう」
ガノンが言う。この魔王は自分の力に驕りも、過信もしていなかった。
ただ、信念と野心があった。
「誰が…誰を褒めてんだよ…」
ソードビームを放つ。しかし、力が入りきらない。いとも簡単に弾かれる。
デットは右腕をやられていた。血を滴らせながら、デットは後ろに下がった。しかし、右の手の甲だけは血を弾いていた。
「俺が、お前をだ。理解できないわけではあるまい」
「できないね。お前が人を褒める立場にあるってことが」
デットは銃を構える。しかし、ガノンは微動だにしない。
「俺が避けられないとでも思ったか、小僧。それとも、自棄になったのか?」
どちらとも違う。デットが狙ったのは、自分の腕。
左手で銃を構え、右手に向けて撃つ。その行為に対し、ガノンは目を見開く。
癒しの力、ヒールレイン。
この銃は、七賢者の力を結晶にして打ち出すことが出来る。司祭デスに使ったのは光の賢者の力。そして今回は…。
「デット、同じ力を使えるのは一日に一回です。気をつけてください」
「分かっています、レインさん…」
「絶対に勝ってください。私たちと、この世界すべての運命が貴方にかかっています」
森の賢者の力。命を育み、守る森の力。
ガノンはデットの傷が癒える前に攻撃しようとする。だが…。
「邪魔はさせません」
見えない障壁によって阻まれた。どうやら、回復中はバリアが張られるらしい。
忌むべき事に、ガノンは手出しが出来なかった。
デットはガノンを睨みつける。彼の右手は既に回復していた。
銃を収める。そして一言。
「さあ来い、返り討ちにしてやる…」
デットがそう言った後、ガノンは向かってきた。
繰り返される攻撃。これにデットは再び押される。
だが、以前とは決定的に違っている。デットの想いが、気迫が。
”絶対負けられない”。その想いから、”絶対勝つ”になるという違い。これだけだが、それがガノンとデットの力量の差を徐々に埋めていった。
そうだ、ここで僕が負けたらこの世界の人たちみんな…!
”負けられない”じゃだめだ。”勝つ”んだ。
「絶対に『勝つ』、お前に。ガノン!」
初めて、デットの攻撃がガノンに入った。左腕に軽い切り傷。だが、それだけでガノンの心が揺らいだ。
今まで俺に押されてきたお前が、この俺に傷をつけるだと…?
そう思うと、焦りが出てくる。落ち着け、こんな小僧敵ではない。今の俺なら簡単に倒せるはず。
ガノンは火を吹く。その火は幾つかの火球となり、ガノンが薙刀を振り回すと火球もその周囲を回り始める。
しかし、デットはその攻撃を避けに避け、ガノンに攻撃した。
会心の一撃、正にそういってもおかしくないほどの威力を、その剣閃は持っていた。
その攻撃に、ガノンはよろめく。間髪入れずに銃を構える。闇の力…闇の賢者の力。
「ガノンはトライフォースの力で、不老不死の力を得ているわ。でも私たちの力を全てガノンに打ち込めれば、ガノンを倒せるか、あるいは…!」
その波動がガノンを襲う。黒い衝撃をうけて、魔王は吹っ飛んだ。
デットはソードビームを放つ。それに対しガノンは…。
「この俺を…なめるな!」
薙刀でソードビームを弾く。そしてガノンの周囲から炎が溢れ出す!
その炎がデットを襲う!
(エーテルじゃ防ぎきれない…!)
その咄嗟の判断で、デットは避けようとする。しかし、この限られた空間の中だ。逃げ道は無い。
炎に飲まれ、デットは高熱に苦しむ。
「貴様はこの俺には勝てん!」
ガノンは薙刀を炎の中へ投げ入れた。